GRACEのカートリッジ

 品川無線がNHK技術陣と共同で開発し、1966年からスタートしたMMカートリッジのシリーズ。多分、日本のMMカートリッジ史の中で最も人気があり、不思議な魅力に取りつかれた方も多い。かく言う私も虜になった。上の写真は私が槐集したF-8シリーズで2022年に全て揃った。製造されてから50年以上経っているが、今でも「おお!」と心の中で賛辞をおくる「音楽」を奏でてくれる。

 トンボの目のような特徴的な交換針のノブ(クランプ)は針先・カンチレバー・ダンパーを替えて様々なレコードや使われ方に対応し、最高の音楽を提供しようという、途方もない要求を見事に具体化したもの。この手法はF-7シリーズに遡り、夫々特殊な針先を用意してシリーズ化し大成功した。まさに日本のオーディオ文化の華のような存在なのだ。

 写真左から、F-8D(緑)、F-8M(橙)、F-8C(変形)、F-8V(灰)、F-8E(黄緑)、F-8F(青)、F-8H(赤)、F-8L(透明)、となっている。ボディと針の関係がオリジナルと異なっているものもあるが、針を交換することでその針の性能を発揮できるということから、自由に差し替えていたので、針が私の手元に来る前のオーナーが入れ替えたものと思われる。

 写真のようにまだ十分整備しておらず、リード線も高級品がおごられているのはF-8Eだけ、ヘッドシェルも決して高級品とは言えないが、これでもさすがF-8はいいなあと思ってしまう素晴らしい音が出てくるのだから驚愕である。

 リード線は電気的に信号を繋ぐもの。ヘッドシェルはカートリッジをしっかり支え、共振や余分な振動を針先に伝えさえしなければ十分だと言われているようだ。インピーダンスの高いMMは、後段のアンプの入力インピーダンスとのマッチングを考えれば、リード線の違いに影響されにくいというのも納得だ。電気の性質を知る者にとってはコネクタや接続部の異金属接触による起電力効果や接触部分の局部的電気導通の安定性、アンプの入力に回路に入っている抵抗の熱擾乱雑音など、リード線の材質云々よりもっと気になることがたくさんある。こうしたことを考えると、MMカートリッジでリード線を気にするのは些か大げさのように感じる。(2024年加筆)

F-6シリーズ

 1960年代初頭から発売された本格的なMMカートリッジ。GRACEはこれがMM型の2番目のシリーズとなる。ボディの色違いで針の違いと合わせている。

 資料が揃わないので確定的なことは言えないが、左がF-6Ea、中央と右はF-6Hと思われる。ご存じの方おられましたら教えてください。

F-7シリーズ

 1963年発売のF-7シリーズ。ボディは共通で針が3種類(7H、7M、7Ea)あり、クランプの色を赤、白、黒でわかるようにした。赤いクランプは7Hだが、白と黒がどれなのか判らない。

 GRACEはこのF-7シリーズから針を差し替えて使い方やジャンルごとに使い分けるスタイルを打ち出し、F-8になった。

F-9L

 F-8の大ヒットから、F-8を改良してさらに高音質を狙ったのがF-9シリーズ。

 今でも時々オークションに出品されるが高額落札で、なかなか手が出ない。

 音質的にはF-8シリーズを継承するもので大きく飛躍したとは思っていないが、安っぽく見えるF-8に比べて見栄えが良いのは確かだ。